バーニングマン(アメリカ)
会場は、外部の世界から地形学的にほぼ遮断されており、電気、上下水道、電話、ガス、ガソリンスタンドなどの生活基盤は整備されておらず、一般のテレビ・ラジオ放送、携帯電話などもサービス提供範囲外となる。 売店や屋台、食堂なども原則無い。主催者側が用意する例外は、食料の鮮度を維持するための氷の販売(地元の学校に利益を還元)と、センターキャンプカフェでのコーヒーやレモネード等のドリンク販売で、この他に金銭を使用できる場面は無い。したがって、バーナー(参加者たちの自称。「燃やす者」の意)は、水、食料、衣類、住居、燃料など、自らの生存のため必要とするものを、自らの責任において事前に準備しなければならない。なお、自然環境保護のため必要とされる仮設トイレ群は随所に設置される。
ブラックロック・シティの「市民」たる各参加者は、思い思いの場所に自らの手で設営したテントやキャンピングカーを家とし、他者と出会い、新規に友人を作り、交遊し、問題を解決し、コミュニティを形成する。この劣悪な自然環境下で生きていくためには、おのずから隣人たちと助け合う必要に迫られるのである。ここでは貨幣経済や商行為は忌むべきものとされており、明確に禁止されている。見返りを求めない「贈り物経済」(Gift economy)と、なによりも「親切なこころ」が共同体を成立させている(物々交換や、物とサービスの交換は推奨されていない)。 その広大な会場の各所には、参加者の手で大小多数のアート・インスタレーションが設置され、昼夜を問わず、会場の至るところで多種多様な活動が実行に移されている。
具体例を挙げるならば、
絵画や彫刻などの制作。舞台演劇。ミュージカル。パントマイム。舞踊。サーカス。楽器演奏。ジャムセッション。
大道芸。仮装。集団パフォーマンス。パレード。ファイアー・ポイ。フラフープ。トランポリン。ウエイトトレーニング。ローラーディスコ。
「アートカー」あるいは「ミュータント・ビークル」と呼ばれる、奇抜なデコレーションを施し、巨大なスピーカーを装備したトラックや移動ダンスフロア、あるいは移動バーカウンターの制作と運用。
大規模レイヴパーティ。野外ダンス。DJ。カウンターでのアルコール類の提供や各種カクテルの調製。友人への料理の提供。
グラフィティ・アート作品の制作。ボディペインティング。持ち寄った服へのシルクスクリーン印刷。
瞑想。ヨガ。座禅。天体観賞。
パネル・ディスカッション。各種ワークショップ。マッサージ。ヒーリング。カウンセリング。
パン焼き教室。鉄パイプ溶接教室。内燃機関のリビルド。アクセサリー手作り教室。
自転車修理/改造。セスナ機での遊覧飛行。スカイダイビング。
大規模な遊具の設置(非常に大きなシーソーや滑り台、ブランコ。人力メリーゴーランド。フリー・クライミング施設)
などである。これら一つ一つが各参加者の自由な発想から生まれた自己表現の手段である。
一方で、診療所の設置や新聞の発行、FM放送局の開設、交通整理、入り口ゲートでの参加者の出迎えなど、この一時的な共同体の構成員全体に貢献するような活動こそが己を表現しうる手段である、と捉える者たちもいる。 例えば「ブラックロック・レンジャー」(Black Rock Ranger)と呼ばれるベテラン・バーナーのグループは、事前に十分な講習を受けた上で、参加者間、あるいは参加者と法執行機関やマスメディアとの間に立ち、様々なトラブルの解決にあたっている。
ブラックロック・シティにおいて一般的な価値観では、こういった活動に参加し積極的に人の輪に加わっていくことや、自ら独創的な活動を企画し、実行してみようという姿勢を高く評価する。 反対に、自分では何もせず、ただ「バーニング・マンを見にきた」物見遊山の第三者であろうという態度は非常に恥ずべきことだ、とされている。
0コメント